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昆虫の感覚系(味覚・痛覚・嗅覚)に働きかけ強い作用を発揮する、農薬や殺虫剤に代わる環境負荷を抑えた忌避剤を開発

資料

transient-receptor-potential-自然科学研究機構_曽我部 隆彰准教授

組織名 自然科学研究機構 生理学研究所 感覚生理解析室/生命創成探究センター 温度生物学研究グループ 曽我部 隆彰 准教授
技術分野 環境/有機化学/無機化学
概要

農業や、衛生管理が必要な食品加工施設等では、農薬や殺虫剤が使われますが、生態系への負荷など環境破壊や汚染が懸念されています。自然科学研究機構 生理学研究所 曽我部 隆彰准教授は、環境中の様々な刺激を感知するセンサー分子で、人を含むあらゆる動物が持つTRPチャネルを軸にした忌避メカニズムを解析し、昆虫の味覚・痛覚・嗅覚をトリプル刺激する忌避剤を開発しました。

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【簡略図】

【背景】

農業害虫や衛生害虫による被害は現代社会において深刻な問題です。殺虫剤は即効性がある一方で、生態系や人体への影響、薬剤耐性の問題が懸念されています。忌避剤はこれらの問題を回避できる代替手段ですが、従来型の忌避剤は選択肢が数種に限られています。さらに、これらの忌避剤は高濃度であっても近距離でしか効果がないものや、合成繊維への溶解作用、健康被害が懸念されるものなど、利用に制限があります。また、昆虫の忌避行動のメカニズムに関する知見が不足していることから、新たな忌避剤の開発は進んでいません。しかし、昨今では世界各国で環境対策の取り組みが進んでおり、特にEUで実施されている食品産業政策では、2030年までに化学農薬の使用を半減する目標が掲げられているなど、農薬の代替手段や化学的防除の安全な利用手段の開発が急務となっています。

【技術内容】

研究者らは、食品添加物としても使用される揮発性物質「2-メチル-2-チアゾリン(2MT)」が害虫忌避剤として機能することを発見しました。2MTは、侵害刺激を受容する神経に発現するTRPチャネル(特にTRPA1)の活性化などを介してショウジョウバエの味覚・痛覚・嗅覚を刺激し、忌避行動を誘発することが明らかになりました。

センサー分子TRPチャネル
2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「温度と触覚の受容体の発見」でも知られる通り、近年、外部からの刺激を生体が受容するメカニズムが解明されてきています。研究者らは、人を含むあらゆる動物の感覚神経に保存されているTRPチャネルに着目し、このチャネルを刺激する化合物を昆虫忌避剤として応用することで、幅広い害虫に適応できると考えました。

げっ歯類のTRPチャネルを活用した忌避剤の評価
TRPセンサーを利用した防除への取り組みには、既にげっ歯類のTRPチャネルをターゲットにした製品があります。
以下の2MT(2-メチル-2-チアゾリン)、4E2MT(2-メチル-4-エチルチアゾリン)、TMO(チオモルホリン)は、マウスのTRPA1を刺激する化合物で、これらの刺激剤を使用した行動実験では、正常のマウスが刺激剤の場所を避けるのに対して、TRPA1の欠損マウスは刺激剤存在下でも活発な行動を示します。

化合物2MTを使ったショウジョウバエの忌避行動実験
研究者らは、このげっ歯類に応用されている化合物2MTを用いて、ショウジョウバエの忌避行動を評価しました。実験では、ショ糖入りアガロースプレートを4つの区画に分け、対角線上に2MTを加えたものと、溶媒のみを加えたものを用意しました。比較として苦味成分キニーネを加えたものも用意し、ショウジョウバエの行動を評価しました。
以下の実験結果から見られる通り、キニーネでは24時間絶食した個体以外では明確な忌避性(嗜好性;PIの低下)は見られませんでしたが、2MTではすべての条件でPIが低下し、強い忌避が示されました。
このことから、2MTはショウジョウバエに対して、苦味物質より強力な忌避効果を持つことが分かりました。

2MTのTRPA1と嗅覚受容体への作用
また、研究者らは2MTの濃度による効果の違いについても評価をしました。以下の左図では、正常なハエは1mMの2MTの忌避効果が経時的に現れるのに対し、TRPA1変異体は変化が起きず、また嗅覚受容体の変異体に対しては、正常なハエと比べて効果が緩やかであることが示されています。そこで、2MTの濃度を変化させて評価を行ったところ、以下の右図にあるように2MTの濃度が低い時には、嗅覚受容体の変異体には忌避効果がないのに対し、正常なハエとTRPA1変異体では忌避効果が見られました。これにより、2MTの濃度が低い時には揮発した2MTが嗅覚受容体に作用して効果が表れ、2MTの濃度が高くなるとTRPA1を介して効果が現れることがわかりました。

2MTが作用するTRPA1の発現神経
以下の図のように、2MTは味覚と侵害刺激神経のTRPA1を介して働くこともわかりました。

2MTの類似物質の作用
2MTの類似物質の作用についても評価をしたところ、それぞれ異なる作用メカニズムを持つことがわかりました。

2MTによるTRPA1の活性化
さらに、2MTがハエのTRPA1を直接刺激して活性化させることや、その活性化に必要なアミノ酸についても明らかにしました。2MTが作用するTRPA1のアミノ酸は、他の害虫においても広く保存されているため、2MTによるTRPA1活性化と忌避は、ハエ以外の昆虫でも起きる可能性が高く、幅広い害虫の忌避剤として活用できる可能性があります。

2MTによりTRPA1が活性化して細胞に流れ込むカルシウムイオンを計測することでTRPA1の活性化レベルを評価

今回明らかにした2MTとその類似物質の組み合わせや、誘導体を用いた機能解析を通してより強力な化合物が見つかれば、さらに効果的な忌避剤の開発につながる可能性があります。

【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】

・忌避剤は農薬や殺虫剤に比べて生態系への影響が少ないため、環境汚染を回避・低減できます。
・TRPA1は味覚や痛覚、嗅覚を感知する神経細胞に存在しており、TRPA1をターゲットにした忌避剤が害虫に対してトリプルに作用し高い効果を発揮します。
・TRPA1は様々な昆虫に存在するため、幅広い害虫をターゲットにした忌避剤の開発につながる可能性があります。
・研究者らは、ショウジョウバエのTRPA1変異体や、嗅覚受容体の変異体を持っており、TRPA1や嗅覚を対象とした物質に関する個体解析が可能です。
・研究者らはいくつかの害虫のTRPA1の発現ベクターを保有しており、培養細胞を用いた分子機能解析も可能です。

【連携企業のイメージ】

・農薬・害虫対策製品を開発する企業
・環境配慮型農業資材を扱う企業
・衛生管理製品を展開する企業

【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】

・農業で使われる殺虫剤に代わり、安心安全な害虫対策として、効果の高い忌避剤を提供できます。
・食品を扱う施設(レストランや食品工場、食品倉庫など)での環境にやさしい害虫対策となります。
・その他、家庭をはじめとする害虫対策が必要な場所、施設などへの幅広い展開が期待できます。

【技術・ノウハウの活用の流れ】

・研究室ではTRPA1変異体及び嗅覚受容体の変異体のショウジョウバエを保有しており、まずはショウジョウバエを対象とした評価からスタートすることが可能です。
・対象とする害虫が特定できている企業からの相談もお受けできます。

【専門用語の解説】

・TRPチャネル:温度や化学物質などの外部からの刺激を感知するセンサー分子です。 害虫を含むすべての動物に保存されています。
・TRPA1:TRPチャネルの一種で、身体に害のある刺激物質に応答して忌避行動を引き起こします。
・2MT(2-メチル-2-チアゾリン):揮発性物質で、食品添加物としても使用されている化合物です。昆虫の感覚神経を刺激し
ます。

キーワード:TRPチャネル、2-メチル-2-チアゾリン(2MT)、昆虫忌避剤、マルチモーダル刺激(味覚・痛覚・嗅覚)、農薬代替技術、低環境負荷ソリューション、害虫行動制御、神経受容体活性化、TRPA1活性化メカニズム、食品加工現場の衛生管理対策

昆虫の感覚系(味覚・痛覚・嗅覚)に働きかけ強い作用を発揮する、農薬や殺虫剤に代わる環境負荷を抑えた忌避剤を開発

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