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磁場によるワイン酵母の成長制御によりオリ(澱)を発生させない添加剤フリーのワイン製造方法

資料

磁場によるワイン酵母の成長制御によりオリ(澱)を発生させない添加剤フリーのワイン製造方法

組織名 鹿児島大学 理学部 三井好古 准教授
技術分野 その他 , ものづくり
概要

ワインの瓶の底に見られるオリ(澱)は、飲む際にワインの風味を損ないます。そのためワイン製造において、オリをフィルターで除去したり、亜硫酸塩の微量添加や熱処理によって、酸化防止と菌の増殖防止をすることがありますが、これらは製造上の工程を増やすことになるほか、風味が変わってしまうこともあります。今回、研究者は、磁場を用いてオリを発生させる原因となるワイン酵母の成長を制御する方法を開発しました。この手法は磁場という非接触でクリーンな環境を用いて、また添加剤フリーでオリの発生を抑制することができます。

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【簡略図】

【背景】

ワインの瓶の底に見られるオリは、飲む際に、舌触りを悪くしたり、ワインの風味を損なうため、オリのあるワインは、飲む前にデカンタに移したりするなどの手間をかける必要があります。ワイン製造の際には、熱処理を施すか、フィルターで除去するか、または亜硫酸塩などの添加剤を使用することで、オリの発生を防ぐ場合があります。しかし、フィルターでの除去は工程を増やしてしまい、生産コスト増加につながります。また熱処理や添加剤は風味を変えてしまう可能性があります。ワインのオリを無添加で、手間をかけずに除去(発生させない)方法が求められています。

【技術内容】

研究者は、酵母の成長に対する磁場の影響について研究を行ってきました。この研究から、磁場の影響が酵母の種類によって異なることを見出し、磁場を制御することで、酵母の種類毎に成長速度をコントロールすることに成功しました。この磁場による酵母の制御技術を用いて、オリを発生させないワイン製造方法を開発しました。

🔳酵母の成長を磁場で制御する
まず、研究者が行った焼酎の先行研究において、磁場が酵母成長を制御することが有効であることがわかりました。
以下はH5酵母という焼酎酵母での実験結果です。8T(テスラ)の磁場をかけた際に、酵母の成長が抑制されているのが分かります。

また、以下のグラフは48時間8Tの磁場をかけた場合と、24時間8Tの磁場をかけたのちに24時間ゼロ磁場とした場合の比較です。後者は48時間ゼロ磁場とした場合とほとんど変わらない数の酵母の成長が見られました。このことから、磁場をかけることで殺菌されているわけではなく、酵母の成長速度が遅れるということが分かりました。

更に、3種類の酵母(H5、K2、C4)に磁場を印加したところ、すべての酵母で菌数が減少しました。また、酵母の種類によって、菌数減少の割合や最小となる磁場の強度が異なりました。つまり磁場によって選択的に特定の酵母の成長を抑制することができるということです。研究者はこの研究成果をワイン製造に応用させました。

関連出願:特開 2018-011551 特開 2016-220652

🔳ワイン製造への応用
ワインを製造する際に使用している酵母には、ワイン酵母の他にオリを発生させる原因酵母(オリ発生酵母)が混入しており、このオリ発生酵母がワインのオリ(中性塩)を作る原因になる物質を作ります。そこで現状のワイン製造では、多くの場合、これを抑えるために亜硫酸塩を微量添加し酸化防止と共に菌の増殖防止を行っています。
この研究では、ワイン製造中にオリを発生させないために、磁場によりオリ発生酵母の成長のみを抑制することに成功しました。

以下は、ワイン酵母とオリ発生酵母を超伝導磁石により5Tの磁場をかけて培養し、酵母の数を評価した結果です。どちらの酵母も、5T磁場中では数は減少しました。(24-48hにおいて、25-45%程度)

また、2つの酵母について、磁場なしの酵母数に対する5T磁場中の酵母数から、磁場による酵母の抑制度を比較しました。5T磁場中では、オリ発生酵母の抑制度は、ワイン酵母より大きいことが分かり、これらのことから、磁場中ではワイン酵母を優先して成長させることができると考えられます。

そこで、ワイン酵母が単独である環境(単一培養)と、オリ発生酵母との混合である環境の場合(混合培養)を比較しました。単一培養では、0Tの場合も5Tの場合も共に、24時間でほぼ定常状態になり、増加は完了しています。混合培養の場合では、0Tの場合では24時間においても酵母数が定常状態になっておらず、増加は未完了です。5Tでは、単一酵母も混合酵母も共に24時間で定常状態になり、増加が完了しています。
つまり磁場を印加させた条件では、オリ発生酵母の成長を選択的に抑制することで、 ワイン酵母を優位に成長させることができます。

また、実際のワイン製造現場での実用化を想定し、電磁石ではなく永久磁石でも同じような効果が得られるかを確認しました。永久磁石で発生させることができる0.5Tの磁力を用いて実験を行ったところ、オリ発生酵母の成長を抑制できることが確認できました。

【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】

・磁場を印加しながら培養、というシンプルなプロセスです。
・酵母によって磁場感受性が異なるため、様々な酵母の組み合わせ・展開が考えられます。
・ワイン製造への応用の際には、永久磁石程度の磁場でオリ発生酵母を抑制可能であるため、瓶詰め保管等の過程での応用も検討できます。
・永久磁石での実用により、磁場は非接触な環境であるため、省エネ・クリーンなプロセスになります。

【連携企業のイメージ】

・ワイン製造メーカー
・ワイン販売商社
・ワインセラーメーカー
・酒造メーカー

【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】

ワイン製造工程において、オリのない無添加ワインを低コストで製造するために応用することができます。また、ワインを製造する商社や物流業者がワインを保管する際に、本技術を応用することでワインボトル内にオリが発生することを防止でき、ワインを高品質に保管する方法として活用できます。レストラン等の飲食店のワインセラーに実装することも考えられます。

【技術・ノウハウの活用の流れ】

本技術にご興味をお持ちの企業様には、まずは研究者との面談をご案内いたします。

【専門用語の解説】

・オリ(澱):ワインの成分が熟成中に結晶化したもので、タンニンやポリフェノール、たんぱく質などが結合したものです。ワインが長期間保存されると、成分が変化しやすくなり、オリが発生しやすくなります。
・亜硫酸塩: 亜硫酸塩は食品添加物として酸化防止や微生物の発生防止に役立ちます。
微生物の活動を抑制するため、オリの発生を減少させる効果があり、特に再発酵を防ぐことで、オリの量を抑えることができます。
・酵母:単細胞の真菌類に属する微生物で、主に糖をアルコールと二酸化炭素に分解します。パンの発酵やビール、ワイン、醤油、味噌等の発酵食品に利用されています。
・グルコース(ブドウ糖):ブドウなどの果物に豊富に含まれています。ワイン製造においては、これが酵母によってアルコールと二酸化炭素に分解され、この発酵過程によりワインのアルコール度数が決まります。

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