トップページ > 大学の技術・ノウハウ > レーダ方式とトモグラフィ方式を融合したマイクロ波コンクリート内部非破壊検査 ―複素誘電率による空洞・腐食識別―
資料 | |
---|---|
組織名 | ものづくり, 国立大学法人電気通信大学 情報・通信工学専攻 木寺 正平 准教授 |
技術分野 | IT |
概要 |
道路・橋・トンネル等のインフラの老朽化は国土強靭化戦略と密接に関連する喫緊の課題であり、老朽化状態を点検する非破壊検査技術が注目されています。本研究では、特にコンクリート等の構造部材の内部状態(空洞、水分の分布)を高精度かつ効率良くメンテナンス点検するための技術として、UWBレーダにRPM(Range Points Migration)法という独自技術とトモグラフィ技術を組合せた非破壊検査法を研究しています。特にトモグラフィ技術を導入することで誘電率の情報を得ることができ、空洞や腐食の識別精度を飛躍的に高められる可能性があります。本研究を活用した製品開発に意欲がある企業を歓迎いたします。 |
お問い合わせ |
この技術・ノウハウに関するお問い合わせ |
詳細 |
【簡略図】
【背景】
道路・橋梁・トンネル等のインフラの老朽化は国土強靭化戦略と密接に関連する喫緊の課題であり、老朽化状態を点検する非破壊検査技術が注目されています。インフラ老朽化は、中央自動車道笹子トンネル天井崩落事故を代表に大規模事故に繋がることがあります。点検には膨大な費用と作業が掛かるため、地域の自治体や管理者は限られた予算や人材で適切な維持管理を行う必要があります。
(中央自動車道笹子トンネル天井崩落事故)
本研究では、特にコンクリート等構造物内部の点検について、高精度かつ効率良くメンテナンスできる非破壊検査技術を研究しています。
本研究の実用化・普及に意欲がある企業を歓迎いたします。
【技術内容】
超広帯域のUWB帯を使用したレーダ計測技術を研究しています。
一般的なレーダと比較し、UWBパルスでは距離分解能が数cm~数mmと高いことが特徴です。例えば3GHz帯を使用した場合には自由空間では距離分解能は5cmで、コンクリート内部では1から2cm程度です。
レーダを用いた画像化技術では、従来手法として「合成開口レーダ(SAR)」という手法が用いられていました。本研究では新たに「RPM法(Range Points Migration)」という手法を研究しています。比帯域が100%のモノサイクルパルスを用いた場合、その中心波長に対して、精度が1/100波長と高精度化し、分解能が1/10と高分解能化し、計算の超高速処理を実現しています。
RPM法は内部画像化に適した手法です。下の図は、円柱状のコンクリート内部に直径数㎜程度の円筒型空洞を4本入れた場合における実験的な評価です.右上図は、従来のSAR法による像ですが、位相不確定性による虚像(False Image)が発生する上に空洞境界部分がぼやけており、分解能が十分でないことがわかります。また計算時間も膨大であることが確認されています。右下図はRPM法による推定像で、RPM法を内部画像化用途に拡張すると虚像が発生せず境界面に沿って可視化できます。また形状も非常に高精度に推定することができます。そのため高精度に内部状態を点検することが可能です。
また、空洞や鉄筋の腐食を識別するには、誘電率・導電率の情報が有用です。
このため、誘電率を再構成するためにトモグラフィ技術が有効とされています。一方、通常のトモグラフィでは全方向からのデータ測定が前提ですが、通常の非破壊計測では特定の方向のみの散乱データしか得られません。このため、十分な誘電率再構成精度が得られないという問題があります。これを解決するため、本技術では、レーダ的な手法により、解析する領域(ROI)を絞り込むことで,解析する未知数を飛躍的に減らすことで、高精度に誘電率の分布を推定する技術を確立しました。
その際、ROIデータをいかに精度よく絞るかが重要ですが、本研究ではベイズ的アプローチを用いて高精度にROIを推定することに成功しています。UWBレーダ・RPM法とトモグラフィ技術を組み合わせることによりコンクリート内の空洞と鉄筋腐食にに相当する誘電率及び導電率を高精度に再現できていることがわかります。
特に下の図は、さび付近の誘電率推定の結果をズームアップしたものです。左上の真値に対して、ROI制限なしのトモグラフィ法(DBIM法)の結果では、誘電率値や形状位置がずれているのに対して、RPM法を統合した結果であると本来の位置に凡そ正しい誘電率値が再現できていることがわかります。
このほか、下の図にあるように、名古屋大学でのトンネル試供体を用いた実験を実施しています。同試供体では、恣意的に空洞がコンクリート内部に入れられており、そのサイズや場所がわかっているため、定量的な検証が可能になります。また下の図では空洞が入っていない場合(上)と、入っていない場合(下)を見ると、厚さ3mm程度の空洞であっても、鉄筋から有意な反射が得られており、レーダにより異物の探知が可能であることが裏付けられます。
本研究室では、上記の実験データの解析なども含めて、多元的かつ高精度なマイクロ波イメージング技術をハードとソフトの両面から進めていきたいと考えています。
【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】
コンクリート等を対象とした非破壊検査技術として主に下記の技術が実用化あるいは研究開発が進められています。
1)フェーズドアレイ超音波探傷法
多数の超音波発振子を線上または面状に配置し、それぞれの発振子を調節することに
より、超音波を特定の深さと位置に収束させ、この収束位置を上下左右にスキャンして画像処理することにより、構造物内部の断面図を得ることができ、傷・亀裂の形状・大きさを判別します。同一欠陥を多数の位置や方向から検出できるため、検出精度が高いことも特徴であり、放射線を使用しないため人体への安全性が高く法規制も無いため手軽に利用可能です。
ただしコンクリート構造物に対しては、超音波の減衰やコンクリート中の小石による乱反射への影響が大きく、画像処理による補正が重要となります。また、一箇所ごとに接触させて検査する必要があるため手間が掛かります。
2)中性子線透過法
鉄やコンクリートなどに対しての透過率が大きいことを利用した非破壊検査法です。透過率の差を利用してコンクリート中の鉄や水分が存在する箇所のイメージングが可能です。実用化には小型中性資源のビーム強度の増強と検出感度の向上が課題です。また、屋外で使用する場合は、放射線遮蔽や管理区域の設定が必要です。
3)赤外線サーモグラフィ法
コンクリート表面には剥離・ひび割れ・空洞があると、その部分だけ他の箇所と温度が異なるため、赤外線カメラはその温度差を検知できるので、コンクリート表面の非破壊検査が可能です。しかし、コンクリート外部からの赤外線は検知できません。
本技術では、UWBレーダの特徴として非接触かつ広範囲かつコンクリートへの透過性があり(内部まで点検でき)、かつRPM法とトモグラフィ技術を用いることで誘電率の情報を抽出することができ、他の技術に対する優位性があります。
【連携企業のイメージ】
インフラ用保守設備や非破壊検査機の開発・製造・販売を行っている、本装置の事業化・普及に意欲がある企業を歓迎いたします。また、コンクリート構造物に限らず、UWBレーダの特性を生かした非破壊検査機や用途開発のニーズも歓迎いたします。レーダやトモグラフィ、マイクロ波イメージング技術、電磁界解析に関するノウハウは研究室にあるため、企業側に関連の知見が無くても連携可能です。
【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】
道路・橋梁・トンネル等のインフラの点検技術に活用可能です。コンクリート内部の亀裂や金属物、水分などを対象に、コンクリートと対象物の誘電率の違いを用いて可視化できます。代表例としてコンクリートを挙げていますが、他の材料にも適用は可能であり、様々な非破壊検査機としての用途が考えられます。非接触かつリアルタイムに検査できるため、例えば、トンネル内で作業員がUWBレーダ検査機を持って移動するだけで検査を進めていく、などの用途に応用可能です。近年ではインフラ点検用にロボット技術が注目されていますが、ロボット用センサとしても活用可能です。
また、UWBレーダは下記のとおり粉塵・暗闇・高濃度ガス・強い逆光等の劣悪環境下でも適用可能です。
その透過性を生かして地中内の埋没物の探査、金属などの資源探査にも応用可能です。
【技術・ノウハウの活用の流れ】
本技術の活用にご興味があればお気軽にお問合せください。UWBレーダの装置デモや技術内容など詳しいご紹介をさせていただきます。
【専門用語】
(UWB(ウルトラワイドバンド))
無線通信の方式のひとつで、データを1GHz程度の極めて広い周波数帯に拡散して送受信を行う手法です。それぞれの周波数帯に送信されるデータはノイズ程度の強さしかないため、同じ周波数帯を使う無線機器と混信することがなく、消費電力も少ないことが特徴です。位置測定、レーダ、無線通信の3つの機能を合わせ持っており、独特な無線応用技術です。
(レーダ)
電波を対象物に向けて発射し、その反射波を測定することにより、対象物までの距離や方向を明らかにする装置です。遠くにある物との距離を電波によって計測し、図示することで航空機・船舶の位置把握や雨雲の雨量計測に、また物体の速度測定や障害物検知などのシステムに使われています。
メールフォームのご利用は、以下の項目にご記入のうえ「送信する」ボタンを押してください。
担当者より折り返しご連絡いたします。
個人情報の取り扱いについては、こちらをご覧ください。