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ピコ秒(1兆分の1秒)~フェムト秒(1,000兆分の1秒)のスケールで起こる化学反応や分子運動を追いかける

資料

ピコ秒(1兆分の1秒)~フェムト秒(1,000兆分の1秒)のスケールで起こる化学反応や分子運動を追いかける

組織名 学習院大学 理学部 化学科 岩田 耕一教授
技術分野 医工連携/ライフサイエンス , 環境/有機化学/無機化学
概要

 ピコ秒(1 兆分の 1 秒)~フェムト秒( 1,000 兆分の 1 秒)のスケールで起こる化学現象は、分子から見るとその姿を変化させるのには充分ともいえる時間です。
 興味のある物質から我々に届く光のスペクトルを読み取ることで、対象物質の状態が分かります。本研究は、この「時間分解 分光法」を用いて、分子の構造や化学反応の仕組みなどを調べることと、新たな分光測定方法を作ることが目的です。
 1990年代の終わりごろに報告された生体膜における「ラフトモデル」の検出は、多くの研究者が課題としています。ラフトは極めて小さく、また短寿命なものであるため、この時間分解分光法の精度を高めていくことは解決の糸口になります。

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【簡略図】

時間分解分光計の原理

<技術の活用例>脂質二重膜の粘度分布とスチルベン(trans→cis異性化反応)

【背景】
 分光測定器は、「光源」「試料部」「分光器」「検出器」の4つから構成されています。「光源」は主にレーザを使います。「試料部」には、気体、液体、固体など、物質の状態に応じた試料セルを用います。「分光器」が光を波長ごとに分け、「検出器」で検出します。本研究では、生きた細胞膜の性質を考慮して、光源となるレーザの出力をいろいろと加工して、検出したい分子構造に最適な分光測定を開発しています。
本研究の技術の活用例の一つとして、生きた細胞膜の「ラフト」の検出があります。細胞膜は、脂質とタンパク質からできていて、それらの分子は、細胞膜の液体中を熱運動して動き回っています。ラフトは極めて小さく、短寿命なものであるため、この生体反応を解明するためには、それを捉えられるような測定器の開発が必要となります。

【技術内容】
<さまざまな分光計を開発>
本研究室では、分光及び分子科学の手法を使って、凝縮相の構造やそこで起こる現象について、独自の分光測定法をつくることを研究課題としています。

[ピコ秒時間分解ラマン分光計]
ピコ秒光源よりも安定なフェムト秒光源を使って、ピコ秒時間分解分光計を作りました。従来のピコ秒光源を使う装置よりも1桁以上安定に動作します。

[フェムト秒時間分解可視近赤外吸収分光計]
電子の水和過程を観察することを主目的として開発しました。白色光発生を工夫することなどで、600~1,000nmの波長領域での吸収スペクトル2,000波長を同時測定することが可能です。

[フェムト秒時間分解近赤外吸収分光計]
InGaAsアレイ検出器を使うことで、波長900~1,500nmの近赤外領域でのフェムト秒時間分解吸収スペクトル512波長を同時測定することが可能です。

[フェムト秒時間分解近赤外非線形ラマン分光計]
共鳴ラマンスペクトルに相当する誘導ラマンおよび逆ラマンスペクトルを波長900~1,500nmの近赤外領域の512波長を同時測定することが可能です。

[ピコ秒時間分解けい光分光計]
ストリークカメラを使って、時間分解けい光スペクトルを10~20ピコ秒の装置応答時間で測定できます。不安定な資料の測定にも使えます。

[偏光ラマン分光計]
ラマンスペクトルの平行偏光成分と垂直偏光成分を精度よく測定できます。

<時間分解分光法 活用の一例:細胞膜のラフトの検出に挑戦>
スチルベンのtrans→cis異性化反応の速度は、溶媒に依存します。スチルベンがtrans体からcis体に異性化するためには、ベンゼン環が周りの溶媒を押し分けて180度回転するような動きをしなければなりません。たとえば、粘度が既知であるメタノールでは30ピコ秒、ヘキサンでは60ピコ秒、ドデカンでは100ピコ秒程度、反応時間がかかることが分かっています。そこで、脂質二重膜中にtrans-スチルベンを封入したもので、けい光寿命を時間分解分光法で測定することで、細胞膜中の粘度分布を調べます。脂質二重膜にラフト構造があるならば、その構造の周辺ではスチルベンの異性化反応がそれだけ時間がかかり、粘度に違いが生じるという仮説のもと、また、粘度が既知の溶媒における反応速度と比較することで、膜の粘度を検討します。
直径100nm程度の単層リポソームの脂質二重膜中にスチルベンを入れて粘度を測定した実験では、粘度が数十倍異なる2種類の領域が存在することが分かっています。反応時間の測定に最適となる光源や検出器の設定も研究課題です。

【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】
 代表的な分子の化学反応をいろいろな溶媒の中で起こし、その様子を観測して蓄積・理解してきたデータがあります。そのデータと比較をすれば、生体細胞などの複雑な分子構造・環境を持つ者に対しても、化学的・物理的な特徴を調べることができます。本研究室では、分子に光をあてて出てくる、ほんのかすかなけい光やラマン散乱光の時間変化を観測・分析して、化学反応の様子を理解するのに最適な実験・測定環境を用意できます。

【連携企業のイメージ】
 極めて小さな構造を持つ(あるいは、そう予想される)分子や、短時間で構造が変わってしまうような分子、さらには化学反応中に分子の間を大きく動く「電子」のふるまいに対して、その構造の解明に貢献できます。上述の通り、分光計の装置は何種類かございますので、さまざまな実験方法を試すことができます。
今回例に挙げたように、「スチルベンのtrans→cis異性化反応」を応用した、物質の構造の解明に取り組んでいますが、ほかにもピコ秒(1兆分の1秒)~フェムト秒(1,000兆分の1秒)のスケールで起こる構造の変化を持つような物質を試料として、時間分光測定が可能ですので、そのような試料の候補を提供してくださるような企業も歓迎いたします。

【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】
 極めて小さな構造を持つ分子や、短時間で構造が変わってしまうような分子に対しても、その微細な変化を測定可能です。また、分子の中や分子の間を大きく動く「電子」の様子を調べることもできます。電子の様子を調べる場合は、主に近赤外線領域の波長の光を測定します。
 このように、ピコ秒(1兆分の1秒)~フェムト秒(1,000兆分の1秒)のスケールで起こる化学現象に対して、時間分解分光測定法における、最適な光源の設定、分光器や検出器の微細な調整を行い、起こっている化学現象を直接的に捉えます。

【技術・ノウハウの活用の流れ】
本研究にご興味があればお気軽にお問合せください。 詳しい研究紹介を含め、連携に向けご面談等のアレンジが可能です。

【専門用語の解説】
(細胞膜の)ラフト構造:ラフトとは、筏(いかだ)のこと。生体膜には、タンパク質が集合した硬い構造をした部分が存在するという考え方。1972年に提案されたSinger-Nicholsonの流動モザイクモデルでは、細胞膜は一様な構造だと想定されていたが、1990年代の終わりごろからこのラフトモデルが報告されるようになった。

スチルベン:transとcisの立体異性体を持つ、炭素二重結合の両脇にベンゼン環がくっついた形の分子。この分子に紫外線を当てるとtrans→cis異性化反応を起こす。trans-スチルベンはけい光を発するが、cis-スチルベンはけい光を発しない。

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