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角層で吸収促進効果を発揮し角層下で分解する経皮吸収促進剤 Azone構造類似イオン液体

資料

角層で吸収促進効果を発揮し角層下で分解する経皮吸収促進剤 Azone構造類似イオン液体

組織名 城西国際大学 薬学部 医療薬学科 押坂 勇志助教
技術分野 医工連携/ライフサイエンス
概要

 経皮吸収型製剤は、簡便に利用でき、投与したかどうかを患者本人だけでなく介護者が確認しやすいなど、経口剤や注射剤にはないメリットがあります。しかし、既存の経皮吸収剤は、皮膚の最外層に位置する角層がバリアとなるため、分子量が小さくかつ脂溶性が高い薬物に限られることが知られており、限定的な利用にとどまっています。また従来研究されてきた性能の高い吸収促進剤(Azone)は、吸収促進効果が高いものの角層下で皮膚刺激を引き起こすなど、実用化に至りませんでした。
 本研究では、イオン液体技術を応用した経皮吸収性が高く低刺激な経皮吸収促進剤を設計しました。この技術を活用したい企業を歓迎します

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【簡略図】

【背景】
 経皮吸収型製剤は、皮膚に貼付もしくは塗布して使う製剤で、簡便に使えて、投与状況を本人や介護者が確認しやすく、薬剤の吸収速度を制御できるなどの利点があり、また経口製剤のように肝臓を通過することがないので、肝臓による薬物代謝を受けないという特徴があります。
 しかしながら、皮膚は最上層の角層がバリア機能を担っており、分子の大きな薬物や親水性の薬物は、皮膚から吸収しにくく、経皮吸収型製剤へ応用できる薬剤は限定的となっていました。
 この課題に対して、従来から経皮吸収促進剤の開発は活発に行われており、その中でもLaurocapram(Azone)は角層中の細胞間脂質に作用することができる化学物質で、その性能に高い期待が持たれていましたが、開発中にそのごく一部が角層下に侵入して皮膚刺激性を引き起こすことが判明し、実用化に至りませんでした。

【技術内容】
 イオン液体は、アニオン性物質とカチオン性物質から構成される液状のもので、融点が低く、室温付近でも液体の状態で存在します。薬物をイオン液体化することで疎水性を向上させることで吸収性能が見込め、高イオン濃度のため難溶性薬剤の溶解が可能となるなど、昨今、これらの性能を生かした薬物のイオン液体化が脚光を浴びています。
 本研究では、このイオン液体に着目し、角層で吸収促進効果を発揮し、角層下で分解するAzone構造類似イオン液体を調製することを考えました。カチオン性物質としてε- caprolactamを、アニオン性物質としてmyristic acidを選択して、Azone構造類似のイオン液体型IL-Azoneを調製しました。

Azone (a), ε- caprolactam (b), myristic acid (c), IL-Azone (d)の
スチュアートモデルおよび化学構造
Physical properties of model compounds

 この合成したIL-Azoneが角層に対し、Azone同様に吸収促進効果を示し、水分が多い角層下まで透過すると、ε-caprolactamとmyristic acidに解離することで、Azoneで問題となった皮膚刺激を軽減できるかを以下のように検証しました。

 <皮膚一次刺激性試験>
 Azone単独(Neat Azone)、IL-Azone 単独(neat IL-Azone)、Azoneを1,3-BGに溶解させ3%としたもの(3% Azone in 1,3-BG)、IL-Azoneを1,3-BGに溶解させ3%としたもの(3% IL-Azone in 1,3-BG)、1,3-BG単独( 1,3-BG )の皮膚刺激性は、ウサギを用いた以下の方法(Draize法)により評価しました。
 ウサギの体幹背部にバリカンを用いて刈毛した後各サンプル(0.5 mL)を2.5 × 2.5 cmのパッチに均一に塗布して24時間貼付しました。なお、controlにはパッチのみ貼付しました。
 パッチの上から自着性弾力包帯を胴体に巻き固定し、貼付24時間後にパッチを除去し、アセトンを湿らせた脱脂綿を用いて投与部位を清拭しました。
 皮膚刺激性の採点は、投与前、パッチ除去後(0.5、24、48、72時間)に紅斑もしくは痂皮および浮腫の形成を観察し、以下のP.I.I.の評価基準に従って採点しました。

紅斑もしくは痂皮および浮腫のスコア
P.I.I.の評価

 一次刺激性インデックス(P.I.I.)から、neat Azoneは強度刺激性、neat IL-Azoneは中等度刺激性、3% Azone、3%IL-Azoneは軽度刺激性となりました。3% Azoneおよび3% IL-AzoneのP.I.I.は、それぞれ1.3、0.2であり、3% IL-Azoneの皮膚刺激性は、3% Azoneよりも低くなりました。3% IL-Azoneでは、製剤剥離後、0.5時間で1例のみにわずかな紅斑と浮腫が観られましたが、それ以外の測定時間およびその他の2例について紅斑および浮腫は観られませんでした。
 この実験にて、IL-Azoneは、Azoneよりも刺激性が弱いことから、IL-Azoneを皮膚に適用すると、水分の少ない角層中ではIL-Azoneのままであり、水分量が多い生きた表皮・真皮中ではε-caprolactam とmyristic acidになると考えられ、Azoneの皮膚刺激性よりも低刺激性の物質になることが分かりました。なお、全ての経皮吸収促進剤の皮膚刺激性において、紅斑、痂皮、浮腫以外の皮膚反応は観られませんでした。

P.I.I.スコア

<皮膚透過性試験>
 皮膚透過性試験は、ブタ耳皮膚を用いました。ブタ耳皮膚は、横型2-チャンバー拡散セルに挟み、ドナー側に各種経皮吸収促進剤を3 mL、レシーバー側に0.9%生理食塩液を3 mL適用し、16時間前処理を行いました。前処理後、ドナー側の経皮吸収促進剤を取り除き、脱脂綿を用いて清拭しました。清拭後、各モデル薬物の水溶液を3 mL適用し、24 h皮膚透過試験を行いました。

各種皮膚透過促進剤で前処理した皮膚を介した各モデル薬物の累積透過量。
Mean ±S.D. (n = 3-4).
:neat Azone:neat IL-Azone :3% Azone in 1,3-BG
:3% IL-Azone in 1,3-BG :neat 1,3-BG

 この実験結果から、Azoneには及ばないものの、Neat IL-Azoneにおいても4~4.7倍程度の吸収促進効果が得られました。また、3% IL-Azoneでは、水溶性のISMNおよびFD-4に対して吸収促進効果が得られました。

【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】
 既存の経皮吸収型製剤用の経皮吸収促進剤として開発検討されてきたAzoneは、皮膚刺激性が指摘され、これまでにもAzone構造と類似した種々化学物質が合成され試験されてきたが、期待したほどの皮膚刺激性の軽減効果が得られませんでした。本研究では、イオン液体技術に着目して、Azone構造類似のイオン液体型ante-enhancerを設計することで、経皮吸収促進効果があり、かつAzoneよりも低刺激性の経皮吸収促進剤を設計することができました。
 この記事で紹介したAzoneだけでなく、その他の経皮吸収促進剤についても、イオン液体型ante-enhancerの設計が応用できる可能があります。

【連携企業のイメージ】
・経皮吸収型製剤を製造開発する製薬企業
・化粧品に経皮吸収の技術を応用することを希望される企業
・経皮吸収型サプリメントの開発に取り組む企業

【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】
・今まで経皮吸収型製剤には適応できなかった製剤への適用を検討
・既存の経皮吸収型製剤の性能向上のための取り組み

【技術・ノウハウの活用の流れ】
まずは、研究者とのご面談を調整させていただきます。

【専門用語の解説】
・経皮吸収型製剤
 皮膚に貼付して用いる製剤で、薬剤を皮膚から血液に吸収させて作用させるものです。 肝臓で薬剤が代謝されることなく薬を全身へ送り届けることができ、吸収速度を制御でき、血中薬物濃度を長時間一定に維持しやすいという特長があります。

・経皮吸収型製剤
 皮膚に貼付して用いる製剤で、薬剤を皮膚から血液に吸収させて作用させるものです。 肝臓で薬剤が代謝されることなく薬を全身へ送り届けることができ、吸収速度を制御でき、血中薬物濃度を長時間一定に維持しやすいという特長があります。

・イオン液体
 イオン液体とは、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される液体の「塩」であり、常温常圧下で液体状態にあるものをいうことが多いです。  高いイオン電導性・不燃性・不揮発性などの特性があり,製剤や燃料電池、溶媒などへの応用が期待されます。

・ante-enhancer
 身体に吸収され、効果を発揮した後すぐに全身的な作用がほとんど消失する添加剤です。Ante-drugと類義語。

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