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超伝導バルク磁石を用いた卓上型 磁気浮上装置

資料

超伝導バルク磁石を用いた卓上型磁気浮上装置

組織名 学習院大学 理学部物理学科 高橋圭太助教 
技術分野 ものづくり , 環境/有機化学/無機化学
概要

 物体を浮遊させる技術は、非接触での物質の分離や材料プロセス開発などの資源エネルギー分野、タンパク質結晶や細胞培養などの生命医科学分野へ応用が期待されます。浮遊環境を利用するために従来のように宇宙空間で微小重力実験を行うことには汎用性やコストの面で課題があります。そこで、研究者は超伝導バルク材料を用いた小型の磁場源に注目し、磁気浮上による浮遊環境を提供できる卓上型磁気浮上装置を提案しています。これにより地上の大気中でも浮遊環境の運用が可能となり、浮遊環境の学術的かつ産業的利用に向けた研究開発を加速します。

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【簡略図】

地上で浮遊環境を提供する卓上型 磁気浮上装置
(高勾配型超伝導バルク磁石装置)


本装置の特徴 = 磁場性能 × 装置汎用性
・最大-1930 T^2/m(8.6 T発生時)の磁気力場で浮上可能
・真空容器外の大気中(直径2.5cmのボア空間)で利用可能
・超伝導技術による半永久磁場で長期運用・装置複製も可能

【背景】
 物体を浮遊させる技術は、重力のない静止浮遊状態における物質の分離や輸送のほか、クリーンで高品質な材料プロセスが行えるとして、「資源・エネルギー」「生命・医科学」といった多領域での応用が期待されています。

 世界各国では、微小重力空間にある国際宇宙ステーションで宇宙実験を実施できる民間利用サービスが2024年以降に始まります。しかし、宇宙で実験が開始されるまでには、準備やメンテナンスに半年〜1年程度の時間が必要とされており、研究開発における利便性は高いとはいえません。

 一方で、地上で無重力環境を再現する手法の一つが「磁気力」を用いる手法です。身の回りの多くの物質(水や生体物質、非鉄金属など)は負の磁化率を有する反磁性体であり、磁場による反発力を与えることで浮遊が可能になるのです。この磁気力は重力と同様に材料内部で静的かつ当方的である点が注目を集めています。

 しかし、強力な磁場を作り出す際には、大型の電磁石の運用が必要でした。そのため、磁場関連の特殊な研究施設に実施が限定されるほか、運用時間に分単位の制限があるなど、汎用性やコストの部分で課題があるとされています。

 以上のように、浮上環境は各分野で応用が期待できるものの、その利用においては汎用性に課題がありました。異分野融合における様々な研究開発のニーズに答えるため、磁場性能と汎用性の両立を実現する新たなハードウェアソリューションが求められています。

【技術内容】
 「高勾配型超伝導バルク磁石装置 (以下、HG-TFM装置)」は、浮遊環境を地上で簡便に利用するための装置です。「強磁場と汎用性の両立」をコンセプトに開発。大気中に開放されたボア空間で、浮遊環境の提供を可能にしました。

 HG-TFM装置は冷凍機と断熱容器で構成され、内部に磁場発生の要となる銅酸化物超伝導材料(EuBaCuO)の円筒形バルク結晶を積み上げた構造体が配置されています。磁石として扱うためには着磁工程が必要で、超伝導電流を電磁場で誘導することで小型の強力な磁場源となります。 超伝導の電気特性を極低温で安全に利用できるよう、低熱収縮ヒートシンク機構が付帯しています。さらに電磁力による材料破壊を防ぐため、外側は金属製のリングによる機械的な補強がなされています。磁気力場(電磁気学)、冷却効率(伝熱工学)、機械補強(材料力学)を両立した、総合的かつ能率的な構造設計となっています。

磁気力場で物体を浮上させる浮遊空間は装置外部のボア空間にあり、直径2.5 cm、深さ8 cmの大きさを有しています。従来の浮遊技術は装置内部の閉鎖的な空間に限定的でしたが、HG-TFM装置は大気空間でcm単位の大きさを実現しています。

 HG-TFM装置の運用実験を着磁温度21 Kで行った結果、捕捉磁場8.57 Tおよび磁気力場-1930 T^2/mの発生、そのほか磁気力の指標となるビスマスや水の磁気浮上 (>-1400 T^2/m)の実証に成功しました。当初のコンセプトである「強磁場と汎用性の両立」を達成した磁場源の開発に成功しました。

 大気中での磁気浮上を可能にしただけでなく、汎用性の高さをも実現したHG-TFM装置は、浮遊環境の学術的かつ産業的利用を加速させることが期待されます。本装置の浮遊環境は、非鉄金属・無機物・有機物などを対象として浮上が可能で、物質の状態(固体・液体・気体など)も問いません。
クリーンで高品質な材料プロセスの開発では、タンパク質結晶、細胞培養などに活用することで、生命医科学や再生医療の発展に寄与できると考えられます。また、浮上分離技術は、使用済み電子基板からの貴金属の回収、日常生活ではペットボトルごみの分別などに活用することで、資源・エネルギー分野におけるSDGsの実践にもつながります。さらに物体の浮上形態を評価することで、様々な材料を破壊せずに検査できるかもしれません。

 HG-TFM装置は、浮遊環境をより簡便に利用するためのプラットフォームとして機能することが期待されます。これまで宇宙で行われてきた実験を地上で置き換えることはもちろん、宇宙実験を行う前段階の予備実験の位置づけとしても有望視されます。

【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】
・擬似無重力/微小重力環境を活用できる
・強力な磁場環境を活用できる
・サンプルをその場で簡便に浮遊できる
・導入台数の増加により、キャパシティの拡大も可能
・半永久的に磁場を発生させることができ、長期運用も可能

【連携企業のイメージ】
・資源供給/エネルギー分野(分離回収、電力工学に関連)の企業
・生命医科学分野(タンパク質結晶化/再生医療に関連)の企業
・宇宙実験などの無重力実験に取り組む企業
・磁場を利用した材料プロセス開発に取り組む企業

【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】
・都市鉱山からの有価資源回収/マテリアルリサイクル
・清浄な浮遊環境における結晶成長/材料プロセス
・浮上している物体の形態観察/非破壊検査技術
・宇宙実験の予備実験、地上での置き換え

【技術・ノウハウの活用の流れ】
本技術にご興味があればお気軽にお問合せください。
詳しい研究紹介を含め、連携に向けたご面談等のアレンジが可能です。

【専門用語の解説】
・超伝導バルク磁石
低温下で直流電流に対する抵抗がゼロになる物質を「超伝導体」といいます。超伝導体の結晶構造が規則的に配列したバルク体に対し、高密度で大電流を循環させることでテスラ級の強い磁場をその内部に閉じ込めることができます。手のひらサイズで見た目が永久磁石に似ていることから、擬似永久磁石とも呼ばれます。

・無重力環境
宇宙空間のような重力の影響がない環境を意味します。擬似的に無重力環境を作り出す手法は、放物線運動による慣性を使う「航空機実験」や回転運動により重力を分散する「細胞培養装置」の事例があり、磁場を活用した手法はそれらに並ぶ技術です。重力の影響を受ける地上では実現不可能であった浮遊環境は、材料を用いる各分野の発展を基礎から応用に至るフェーズで後押しすることが期待されています。

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