トップページ > 大学の技術・ノウハウ > 高分子ナノ粒子を用いた皮膚内への薬物伝達
資料 | |
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組織名 | 城西国際大学 薬学部 医療薬学科 竹内 一成 教授 |
技術分野 | 医工連携/ライフサイエンス |
概要 |
経皮吸収型薬剤は、患者の負担が少なく投与でき、経口薬剤にみられる初回通過肝代謝の影響を受けずに薬剤を継続的に投与できる手法として有望ですが、皮膚には最表面にバリア機能を有する角質層があり、薬剤を十分に皮膚内部に浸透させにくく、そのためこれまで多くの経皮吸収剤や物理的な吸収増強手法が研究されています。しかしこれらは皮膚バリア機能の低下をもたらすことがあり課題が残っています。 |
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【簡略図】
【背景】
薬物の経皮吸収は、患者の負担が少なく体内の薬物濃度が制御し易いことから、多くの疾患に対する投薬方法として期待されています。また、経口薬物の場合には考慮しなければならない、初回通過効果(肝臓を通過する際に起こる薬物の代謝)を回避することができるなど、多くのメリットがある投薬手法です。しかしながら、皮膚には最表面に角質層と呼ばれるバリア層があり、皮膚から十分に薬物を浸透させることが難しく、一般的に経皮吸収されやすい薬物としては、分子量が小さく(500 0dalton以下)且つ、薬物の融点が低い(目安として200℃以下)ものとされており、かなり限定的でした。そのため、様々な浸透性改善に向けた研究が行われています。
これまで薬物を浸透させるために研究されてきた手法としては、経皮吸収剤や物理的な吸収増強手法などが挙げられますが、これらは皮膚のバリア機能の低下をもたらすことが多く、皮膚に負担をかけることなく安全に使用するには問題がありました。
そこで本研究者が着目したのは、高分子を用いたナノ粒子です。高分子ナノ粒子は表面修飾や物理化学的性質の制御が比較的容易であり、広範な薬物を搭載可能であるといった多くの利点があり、これを薬物の経皮吸収に応用することで、多くの疾患の治療に資する医薬品への応用が期待できると考えました。
【技術内容】
一般に高分子を用いたナノ粒子は、皮膚浸透性が低く、皮膚の深部にはあまり到達しないため、経皮吸収型薬剤としての応用には不向きな材料ですが、これを解決するため、生体適合性と生分解性により医薬品用途の生分解性ポリマーとしてすでに広く活用されている乳酸‐グリコール酸共重合体 (PLGA)を用いた研究成果が注目されていました。まず本研究者は、平均粒径50nm PLGAナノ粒子を調製し、皮膚透過実験で透過性を確認しましたが、PLGAナノ粒子は角質層と深部の毛包で観察されましたが、真皮や皮下組織には分布しておらず、粒子が角質層より深い組織には入り込んでいないことがわかりました。
そこでこの皮膚透過性を向上させるために、Poly(DL-lactide-co-glycolide)-block -poly(ethyleneglycol)-block-poly(DL-lactide-co-glycolide) triblock copolymer(PLGA-PEG-PLGA)に着目しました。この高分子材料は、注射可能なハイドロゲルからの治療物質の放出を制御するための温度応答性材料としての使用が研究されており、温度の上昇とともに液体からゲルに変化するように設計できます。これまでマイクロニードルでの使用や、血液貯留の改善を目的としPLGA-PEG-PLGA トリブロック共重合体ミセルに関する研究が報告されています。
このPLGA-PEG-PLGAを薬物担体として使用する経皮吸収による薬物伝達に取り組みました。
【疎水性薬物モデルを担持したナノ粒子材料の調製】
まず、平均直径 30 nm の PLGA-PEG-PLGA トリブロック共重合体を使用して、皮膚疾患である乾癬に使用されるシクロポリンA (CsA) を担持したナノ粒子を調製しました。CsAは、親油性が高く、溶解性は低い薬物で、また分子量が大きく (1202 Da)、環状構造であるため拡散断面積が大きいので、皮膚の奥深くまで浸透させることが難しいことで知られています。
平均直径30nm PLGA-PEG-PLGA トリブロック共重合体のCsAを担持したナノ粒子は、選択的溶媒和と逆溶媒拡散法を組み合わせて調製しました。
【ラット皮膚による皮膚透過試験の結果】
以下は、CsA搭載ナノ粒子とオリーブオイル混濁液、20%エタノール混濁液を比較した皮膚透過性試験を行った結果です。ラットから採取した皮膚を用いて実験を行いました。
図a)に示す通り、ナノ粒子化したいずれのサンプルでも経皮吸収が促進されることが分かりました。また24時間の実験結果をみると、いずれのナノ粒子も20%エタノール混濁液よりも高い皮膚移行性を示しました。
また、図b)に示すように、12時間の結果では、20% エタノール懸濁液が最も高いCsA皮膚浸透を示しましたが、24時間の結果ではPLGA-PEG-PLGA ナノ粒子と同等となり、ナノ粒子化によるCsAの徐放の効果をと言えます。PLGA-PEG-PLGAナノ粒子の結果と PLGA ナノ粒子の結果を比較すると、CsAの皮膚透過量は投与後12時間では類似していましたが、24 時間では1.3〜1.6倍に増加しました。
これらの結果から、この研究で調製したナノ粒子は、PLGAナノ粒子に比べて皮膚に浸透しやすく、皮膚深部への薬物伝達が高いことが明らかになりました。また、この材料は低刺激で水性薬物をヒトの皮膚に送達できる可能性を示すことができました。
※この記事の図・表は、出版元Elsevierの許可を得て、以下より転載しています。 Takeuchi, A. Kagawa, K. Makino, Skin permeability and transdermal delivery route of 30-nm cyclosporin A-loaded nanoparticles using PLGA-PEG-PLGA triblock copolymer. Colloids Surf. A: Physicochem. Eng. Asp. 600, 124866 (2020).
【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】
・皮膚への刺激が少なく、皮膚を介した薬物の全身投与や慢性皮膚疾患の治療に利用できます。
・角層や毛嚢への高い透過性を活かして、化粧品の有効成分の輸送担体として応用できます。
・高分子ナノ粒子を用いた経皮投与には、投与時に有機溶媒を用いないため皮膚に負担をかけずに経皮投与できます。
【連携企業のイメージ】
高分子ナノ粒子を用いた経皮投与には、投与時に有機溶媒を用いないため侵襲性が低いという利点があります。現在、これを活かした慢性皮膚疾患治療に関する研究を進めていますが、化粧品分野への応用についても検討しています。
【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】
・経皮吸収型薬物の研究開発を行う製薬メーカー
・化粧品メーカー
・美容、エステ関連企
【技術・ノウハウの活用の流れ】
まずは、研究者とのご面談を調整させていただきます。
【専門用語の解説】
・経皮吸収型薬物
皮膚に貼付して用いる製剤で、薬剤を皮膚から血液に吸収させて作用させるもので す。 肝臓で薬剤が代謝されることなく薬を全身へ送り届けることができ、吸収速度 を制御でき、血中薬物濃度を長時間一定に維持しやすいという特長があります。
・初回通過肝代謝
経口で投与された薬物は腸から吸収され、まず肝臓へ移動し代謝されます。このように吸収された薬が最初に肝臓を通り、代謝を受けることを初回通過効果といい。医薬品開発の際には初回通過効果も考慮する必要があります。
・医療用生分解性ポリマー
医療用に開発された生分解性ポリマーは、生体内で加水分解し、生分解性、生体吸 収性、生体親和性のある材料で、医薬品、医療機器用として広く使用されています。
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